断章64

 1991年に崩壊したソ連邦を支配していたのは、ノーメンクラトゥーラと呼ばれた特権階級だった。ノーメンクラトゥーラに都合の悪い諸文献(例えばトロツキーブハーリンのもの)は、「国禁の書」であった。

 レーニンの『ブハーリン 過渡期経済論 評註』は、スターリン派がブハーリン派を粛清するために利用するべく1929年に発表されたが、当の『過渡期経済論』そのものは、「国禁の書」だから読むことができないというチグハグぶりだった(笑い)。

 

 嘘か誠か、わたしには確かめるすべが無いのだが、韓国で『反日種族主義』という本が売れているそうである。パク・ユハの『帝国の慰安婦』のような顛末(テンマツ)になるか、見届けよう。

 黄 文雄の『立ち直れない韓国』(2014年・扶桑社刊、1998年の同名著作に加筆)を、当時の韓国で出版すれば、どう扱われただろうか。そもそも出版が無理。それとも出版後に“発禁処分”だろうか。あるいは、ブハーリン『過渡期経済論』のような扱いをされただろうか。

 

 本書について(一部ネタばれになるが)、あるアマゾン・レビュワー(LAW人)は、「個人的に興味を惹いたトピックを幾つか紹介したい。まずは韓国側の『歴史認識』に言う『日帝』の『七奪』について、その『日帝』(朝鮮総督府)が行った近代化、李朝時代から続く『身分階級制度』の廃止、『奴婢解放』、戸籍の整備、『創氏改名』の歪曲など、読み応えがある。中でも韓国歴史家の格好の批判対象となる『創氏改名』については、著者は真っ向からこれに反駁し、『身分階級制度』から『最下級』の人間に『姓氏』が許されなかったことなどを高麗朝の歴史から『創氏改名』の事実を説きつつ、『日帝』の行った『身分階級制度』の廃止と『創氏改名』の歴史的意義を指摘、韓国の『歴史認識』について、『なぜ“姓氏”差別をした 李朝を直視しないのだろうか』と指弾している。高麗朝からの中国王朝に阿諛(アユ)するような『創氏改名』の事実や地域差別など、韓国の『歴史認識』の独善を1つずつ反駁し、『七奪』を『七恩』と結ぶのが極めて興味深い」(前後を省略)と評している。

 

 さて、2014年本書出版当時の韓国大統領は、朴槿恵(パク・クンヘ)である。なので、「はじめに」の初っ端から、朴槿恵(パク・クンヘ)のおでましである。

 「朴槿恵大統領になってから、しきりに独善的な『正しい歴史認識』を日本に押し付け、しかも『告げ口』の世界行脚、さらに日本に対する『千年の恨(ハン)』と公言している」(1頁)。

 

 うちの死んだ祖母さんは、いかにも百姓女らしく、「コメの一粒は、百姓の汗の一滴。飯茶碗のご飯粒は、一粒も残すな」と言っていたが、誠に“神仏”の好きな人であった。「塀の中に落ちた」朴槿恵を見たら、「日本の悪口ばっかり言ったから、罰が当たった」と言っただろうか。

 お馴染みのエドワード・ルトワックも辛辣(シンラツ)である。

 「2015年の後半、習近平の訪米直後に、朴槿恵大統領が訪米したが、合同記者会見の席で、オバマ大統領はボディー・ランゲージで怒りを露わにしたのである。『中国は(南シナ海で)国際的な規範を守るべきだ』と説いたのだ。まるで中国のメッセンジャーであるかのような朴大統領の行動を非難したのである。

 この時のCNNの報道映像は、とても象徴的なものであった。というのも、このニュースの前後の画像に、朴大統領が同年の北京の抗日戦争勝利70周年記念の軍事パレードに参加して、他の独裁国家の首脳たちと並んでいる様子が映されていたからだ。そこにはカザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領やロシアのプーチン大統領と並んだ朴大統領の姿があった。オバマ大統領は、『君は独裁国の首脳たちと一緒にいたわけだから彼らのメッセンジャーガールだ』とみなした上で、彼女の前で『われわれは中国の勝手な行動をゆるさない』と主張したのである。(中略)

 大国同士の首脳が会談するときは、その立場は対等であるべきだ。中規模国家も、なんとか同じような立場をとるべきだろう。しかし、朴大統領が北京に到着したら、本来ならば小国の代表として、両国の懸案事項である漁民の扱いなどの問題を持ち出して、北京に対していろいろと不満をぶつけて要求するべきだったのだ。

 小国にふさわしいのは、イギリスの首相が訪米した時にもわかるように、ひたすら要求を主張していく態度だ。要求ばかりを並べた、イスラエルのビンヤミン・ネタニヤフ首相のオバマ大統領に対する態度からもわかる。これが小国が生き残るためのルールなのである。

 ところが朴大統領は習近平に対して何をしたか。何とハルビン駅に、伊藤博文を暗殺した安重根の記念碑を建てることをお願いしたのである。これは習近平に対する、彼女なりのメッセージではあった。『あなたは日本が嫌いで、私も日本が嫌いだから、小朝鮮のお願いを聞いてよ、われわれは兄弟なんだから』と。英語で言えばcurrying favor′ つまり『ごきげんとり』である。

 ここで本来、彼女が要求すべきだったのは、暗殺者の記念碑の建立ではなく、漁船が我が国の領海に侵入するのを取り締まってくれ。我が国の漁民や海洋警察を殺すのは止めてくれ、ということだ」(『中国4.0』 文春新書)。

 

【参考】

 「ノーメンクラトゥーラは、ソ連邦の支配階級であり、絶対的権力を独占していた。この“新しい階級”に生命を吹きこんだのは、レーニンスターリンである。その萌芽はレーニンの職業革命家の組織にあった。この組織が権力を掌握したのち、スターリンノーメンクラトゥーラが成立し、ソ連邦の支配階級となった。ノーメンクラツーラは搾取し、改革を敵視する少数特権階級であった」(Wiki)。