断章58

 8月14日、神戸大の木村幹教授とジャーナリストの辺真一氏が、BS日テレの「深層NEWS」に出演した。

 慰安婦問題や韓国人元徴用工訴訟問題などをめぐって対立する日韓の歴史認識について、木村氏は「韓国政府は、日本側が本当に反省しているなら、誠意を見せるために謝罪すればよいという見方だ」と述べた。辺氏は「(韓国の)保守政権も徴用工の問題はこだわっていた。歴史問題については一切譲歩しないのが、保守政権も含めた歴代政権の立場だ」と分析した。

 

 あるブログ主は、「“漢口の奇跡”といった大人の世代なら誰でも知っている事すら、日本人と韓国人の受け止め方が違ってきている。新日鉄三菱重工などの日本企業は韓国企業に技術援助などをして韓国の経済発展を助けたのですが、韓国ではそのようには教えられていない。

 韓国人にとっては事実を事実として受け入れられないから、ファンタジーの世界を作り上げて信じ込んでいるから、日本人との冷静な議論が成り立たない。1960年代から80年代の事ですら解釈の日韓のすれ違いがあるから、日本統治時代の事など事実認識すら一致するはずがない。

 2002年のワールドカップですら、日本の資金で競技場が作られた事を韓国人は知らないのだろう。知っている人は知っていても口に出しては言えないような状況があるのだろう。“漢口の奇跡”にしても当事者は知っているが、一般国民は自力による経済発展であると信じている。

 おかしいのは韓国の学界やマスコミであり、国内だけでしか通用しない歴史観を教え込んでいる。だから韓国の若い学生が海外留学して世界的に認められた歴史を知ると茫然自失してしまう。中には大学教授に猛烈に抗議する留学生もいるようですが、大きな声を出したからと言って史実は曲げられない。歴史の解釈は国によって異なるから歴史観まで統一することは出来ないが、史実はどうにも曲げられない。

 1997年のアジア金融危機においても日本は韓国を最後まで支えたのに、日本が原因で金融危機になったと韓国では教え込まれている。ここまでくれば日本と韓国の議論が噛み合わない事は明らかである」と言ったが、これはわたしの立場でもある。

 

 ナイーブな心優しい善意の人でありたい“日本市民”は、韓国に“加害した”という“贖罪意識”に囚われているから、例えば、姜尚中・東大名誉教授から「日本は歴史の前で謙虚にならなければならないと一喝」(2019/8/7『韓日関係、診断と解法』特別講演  ハンギョレ新聞)されたら、たちまち“謝罪と賠償”を語りだす。

 ところが、ナイーブな心優しい善意の人でありたい“日本市民”の“謝罪と賠償”とは、見返りを求めない“施し”と一緒であるから、むしろ受け取り側の心理の奥深いところに“屈辱感”“恨”を育むものなのである。それは問題を解決するよりは、逆に問題を拗(コジ)らせていくのである(国連やNGOのアフリカや中東での終わりのない援助をみよ)。

 

 韓国で『反日』が燃え上がっている。第一の原因が、韓国がこれまで積み重ねてきた『反日捏造(ネツゾウ)教育』であるとすれば、第二の原因は、ナイーブな善意の人でありたい“日本市民”が韓国人の心理の奥深いところに育んだ“屈辱感”“恨”である(「地獄への道は善意で舗装されている」のである)。

 

 1. 日本と韓国は、1965年、日韓基本条約を締結し、韓国は日本に対する戦争賠償の請求を放棄した。その代わり、日本は総額8億ドル(無償3億ドル、政府借款2億ドル、民間借款3億ドル)の支援をした。この額は当時の韓国の国家予算の2倍以上である(当時の日本の外貨準備高の半分に相当する巨額でもある)。

2. 浦項総合製鉄(ポスコ)創業者のパク・テジュンは、「パク・ジョンヒ大統領の製鉄立国執念と新日本製鉄・稲山会長の全幅的な支援がなければ、今日の浦項製鉄はなかったはずだ。 資金調達は、米国からの借款のために努力した。しかし駄目だった。 韓国の総合製鉄所は成功の可能性がない、ということだった。 それで考え出したのが、日本との国交正常化で受けた対日請求権資金だ。 さらに日本輸出入銀行から5000万ドルを借り、本格的な工事を始めることができた」と過去に語っている。

 ポスコだけではない。ソウル大学病院の子ども病棟は日本が支援した。

 「当時は未だ中小企業レベルであった現代グループも、船舶部門では三菱重工からエンジンの供給や船舶設計などの中核技術の指導を受け、アメリカの排出ガス規制をクリアできなかった自動車部門は、三菱自動車デボネア、デリカ、パジェロなど数多くの車種やプラットフォームを流用して、ポニーエクセル、ソナタ、アトスなどの車種を生産し、最高級車のグレンジャーも、当初はデボネアの韓国版であった。

 一方、サムスンの依頼を受けて伊藤忠からも多くの幹部社員がサムスン本社に派遣され、組織の近代化に協力するなど、日本の大手各社がオールジャパン体制で韓国の重要産業の発展の手助けをした事実は、記録を調べれば直ぐ判る事である」(北村 隆司)。

3. 日本の首相は繰り返し過去のことで頭を下げた。旧日本軍慰安婦に対して初めて謝罪した1993年「河野談話」。村山富市首相は95年に「戦後50周年特別談話」。小渕恵三首相は98年に「痛切な反省と心からお詫び」。小泉純一郎首相は2001年、ソデムン独立公園を訪れて頭を下げた(小泉首相が献花した追悼碑は公園整備名目でなくなった)。安倍晋三首相は2006年に国立顕忠院を参拝した。

4. 文在寅大統領は、「徴用被害者問題は1965年の韓日請求権協定で解決した」という見解を決めた2005年の盧武鉉政権時に、この決定を下した委員会に民政首席秘書官として参加していた。「盧武鉉政府は2005年に日韓協定文書を公開した後、元徴用被害者7万8000人に1人当り2000万ウォンの慰労金を支給した」(韓国紙)。

5. ところが、文政権は韓国大法院判決に対して、「三権分立の司法が決めたことだから」「経済交流と政治は別だから」「国民の権利行使の手続きに対して政府が介入してはならない」と、わざと手をこまねいてきた。日本が反発すれば、韓国内の文在寅支持が増えるのが狙いだ。

6. 韓国政府が認定した元徴用工被害者数は、総数21万8693人である。すでに判決の出た賠償額は、概ね一人当たり約1千万円である。予想される必要総額は、2兆円である。

7. 韓国が日本政府と日本企業を入れた1+1とか1+2の財団形式にこだわるのは、それを突破口として、さらに日本から大金を取ろうと目論んでいるからである。彼らは、金を受け取った後に又、「戦犯に時効は無い。永遠に謝罪しろ。もっと誠意をみせろ」と言うだろう。

 

【参考】(一部省略あり)

 韓国は徴用工の問題について、三権分立を建前に大統領が何もできないというが、ウイーン条約法条約では、国内法を理由に国際法上の義務から逃れることはできないことを規定している。最高裁判所であろうと、韓国の国内裁判所の決定が日本と韓国の間の国際協定を無効にすることはできない。

 日韓請求権協定第2条1項では、「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサンフランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と規定されており、日韓での問題は周知の通り、解決済みの話である。これは歴代韓国政府も認めてきたところである。

 また、同協定はこの協定の解釈や実施に関する紛争は外交で解決し、解決しない場合は仲裁委員会の決定に服することが決められているが、仲裁委員会から逃げているのは文在寅政権であり、日本側にWTOでの紛争から逃げていると主張するのは甚だ身勝手だ。

 話を戻せば、日韓間に横たわる経済連携を阻害する要因は、そもそも徴用工裁判の結果を放置し、日本企業の韓国における投資保護が危険に晒されている状況を放置している文在寅政権の不作為である。日本の措置はそもそも経済制裁ではないし、仮に経済制裁であったとしても、韓国に対して「どの口が言うのか」という話である。

 日本の国際法遵守の表れとして、日本は国際司法裁判所強制管轄権受諾宣言を行っている。これは、日本が自国にとって都合が良くても悪くても、相手国が同じ宣言をしている限り、一方に提訴されたら必ず国際司法裁判所の裁判とその判決に従うという宣言だ。この宣言を韓国はしていない。

 一方、こうした日本の考え方と相容れないのが韓国側の「韓国は被害国であり、日本は加害国であるから、韓国は常に道徳的優位に立っている」という道義的、情緒的な正義の話である。「韓国の方が正しいのだから、日本に対しては何をしても許されるという正義が韓国にはある」と主張しているように、日本からは見える。

 しかし、正義とはそのとき、その状況によって移ろうものだ。どんな侵略戦争であっても正義を大義名分としなかった戦争はない。だから日本は正義ではなく法の遵守を旨としているのである。韓国では政権交代によって正義の基準が変わってしまう。法の解釈も政権によって異なってしまっているのが現状だ。

早稲田大学大学院経営管理研究科教授 長内 厚)