断章55

 韓国は、年初から強烈で深刻なPM2.5スモッグに悩まされた。季節が移るか、良い風が吹いて、なんとかならぬかと苦悩した。余りの酷さに、韓国メディアが「責任は中国にある」と叫んだら、中国メディアから一蹴された。

 「ソウルなどで発生しているスモッグが中国と全く関係ないとは言えない。しかし、韓国メディアが言うような50%以上、75%以上が中国からという話は、常識の域を逸脱している。だいいち、中国北部のスモッグはここ数年改善傾向にある。それなのにどうして韓国のスモッグはますます深刻化しているのか。まさか、北京のスモッグをみんなビニール袋に詰め込んで、ソウルの上空にバラまいているとでも言うつもりなのか」

 「韓国人は『アジアでもとりわけ民族感情の強い』国民で衝動的なところもあるので、世論がマスコミの情報に踊らされやすい傾向にある」と、論駁されたのである。

 

 3月、「中国が在韓米軍のTHAAD(高高度ミサイル防衛システム)配備に反発して出した“禁韓令”の一環で韓国への団体旅行を禁じてから2年が経過した。一部で再開されたものの、中国人観光客は戻っておらず、不振が続く。『中国人観光客が戻ってくれば道が開けそうだが、中国がこんな偏狭な国とは知らなかった』とソウル市内で観光客向けにアクセサリーを売る商人が販売減を嘆いた」と、韓国・中央日報が伝えた。

 

 5月、「最低賃金を2年間で29%も引き上げたことで、庶民層の雇用である臨時職、日雇いの働き口が19万5000人分も消えた。台所が苦しくなった庶民が借金をしたことで、家計債務はさらに膨らんだ。貯蓄銀行などノンバンク(第2金融圏)から借金をして、年20%以上の高金利に苦しむ債務者が2200万人を超えた。国民2-3人に1人の割合で“危険な債務者”がいる計算だ。うち貸金業者にまで手を伸ばした人は412万人に達する。昨年廃業した零細自営業者は100万人に達し、自営業者の金融債務はムン・ジェイン政権発足以降に14%増えた」と、新聞は書いていた。

 

 韓国の新聞も、さすがに暗い話題だけでは良くないので、元気の出そうな旧聞を探し出してみた。

 「最悪に突き進むような韓日関係を見てイ・ゴンヒ・サムスン会長が説破した“克日論”が思い出される。S級の若い人材を日本のB級電子メーカーだった三洋電機に産業研修生として送りあらゆる蔑視の中で半導体製造技術を学ばせた李会長が口癖のようにした話がある。『面積で見ようと人口で見ようと蓄積された国力で見ようと韓国が国対国として日本を跳び超えるのは容易ではない。しかし企業としてサムスンはどんな日本企業にも勝つことができ、そうしなくてはならない。』 

  彼の話通りにサムスン半導体と家電、スマートフォンなどで日本企業を確実に押さえて世界の最頂上に上った。三洋電機だけでなくかつては世界市場を制したソニーパナソニック東芝などがサムスンに押され半導体や家電などの事業を放棄した」と。

 

 だが、わたしたちは知っていた。「漢江の奇跡」(これも日本の援助があってこそ)に続く韓国経済の躍進は、日本の経済高度成長をなぞった加工型輸出貿易の賜物であって、いずれは同じ発展パターンを真似た後進国にキャッチアップされるだろうことを。

 果せるかな、「サムスン電子の中国スマートフォン市場のシェアは2013年の19.7%から下がり続け昨年は0.8%まで落ち込んだ。同じ期間にファーウェイ、VIVO、オッポ、シャオミの中国携帯電話大手4社のシェアは23.1%から85.1%と3倍以上に拡大した。テレビ、冷蔵庫、洗濯機など家電産業で世界最高の競争力を持つLGエレクトロニクスも中国では振るわなくなっている。LGエレクトロニクスの中国売り上げは2009年の4兆7594億ウォンから昨年は2兆3768億ウォンと9年間で半減した」(2019/6/05 韓国経済新聞)のである。

 

 ぼんやりとした不安、高止まりする青年失業率。そこで、気晴らしに「親日積弊清算」に力を入れてみた。

 「韓国・京畿道教育庁は6月、道内の小・中・高校およそ2300校の児童・生徒および教師を対象に『学校生活の中の日帝残滓(ザンシ)発掘調査』を行い、“修学旅行”“ファイティング”といった日常用語を清算対象の『日帝残滓』に挙げたという。修学旅行は日本統治時代、朝鮮の生徒に日本を見学させた行事から始まったとして、修学旅行という言葉まで『親日』と決め付けたのだ。『親日残滓清算プロジェクト・タスクフォース』を立ち上げたイ・ジェジョン京畿道教育監(教育庁のトップ)は、東西南北が入っている校名も『日帝残滓』とする立場だという」(2019/7/9 朝鮮日報オンライン)。

 ところが、これもなかなか思うに任せない。たちまち、「京畿道教育庁が管内の初等学校(小学校)、中学校、高校に文書を送り、『日帝残滓清算』との立場から“修学旅行、ファイティング、訓話”などの単語は日本から来たので『日帝残滓』と指摘した。児童・生徒たちに『本人が考える日帝残滓の概念はどういうもので、それらはどうやって清算すべきか』と問い掛けた。しかしこの言葉の中にある“本人”“概念”“清算”は日本から来た言葉だ。“単語”もそうだ」と指摘される始末である。

  

 韓国にとっては、うつうつと楽しくない日々だった。

 「韓国企業が所有・管理していた北京・長安街のサムスン現代自動車の広告板が、6月29日深夜に事前通知や補償の約束もないまま北京市当局によって全て奇襲撤去された。大阪の主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、習近平国家主席は各国首脳に『海外企業に対する公平な待遇』を約束し、米国に向けて『平等で相互尊重に基づいた貿易交渉』を要求したが、現実は外国企業との契約を一方的に無視する中国の素顔をありのまま見せつけた」(2019/7/1 朝鮮日報オンライン)時も、じっと我慢の子であった。

 

 ときあたかも、これまでおとなしかった日本、公館前にいやがらせの偶像を置いても耐えた日本、憎い日本、本音では仮想敵国である日本(ウソだと思うなら、韓国海軍主力艦の名前を見てみたまえ)が、対韓国輸出管理を強化すると言いだしたのである。

 「なんてこった、あのクソ日本野郎が!」である(桃太郎侍でもないのに、「許さん!」となったのである)。

 

 「韓国与党・共に民主党は7月17日、日本政府による輸出管理強化措置発動を受けて党内に設置した『日本の経済報復対策特別委員会』の名称を、『日本の経済侵略対策特別委員会』に変更したと発表した」(2019/7/18 時事通信)。

 「日本の経済報復に憤怒した日本製品不買運動が韓国全土に広がっている。不買リストが出回るかと思えば、日本旅行キャンセルも続出する。日本車への給油を拒否するガソリンスタンド、日本製品の販売拒否をする店舗網も登場した。ソーシャルメディアには『行きません、買いません』というオンラインポスターが広まっている。日本製品を買ったり日本に旅行に行ったりすれば『売国奴』扱いを受ける状況だ。与党議員は『義兵を起こそう』と加勢した。さらにアイドルグループの日本人メンバー退出要求まで佳境に入っている」(2019/7/10 中央日報)。

 日本旅行不買運動には、とりわけ熱心である。

 「日本の松山大学に勤務するチャン・ジョンウク教授は7月15日に韓国のラジオ番組に出演して、『日本旅行不買運動が非常に(日本に)大きな打撃を与えるものと承知している』と明らかにした。チャン氏は『特に観光客の30%が韓国人である別府、福岡など中小地方都市の商人、宿泊業は直ちに被害を感じる』とし『そのために道知事が、景気が突然悪化すれば(日本与党の)自民党に圧力を加えることができる。そうした点で(打撃)効果がある』と話した」(2019/7/17 中央日報)そうである。

 李承晩政権時代から連綿と続いてきた「反日」教育の”成果”がフルに発揮され、かつ極端な国民性があり、さらに大衆運動の論理の然らしめるところ、行きつくところまで行くに違いない。なにしろ、同盟国の駐韓アメリカ大使を切りつけ、同盟国のアメリカ大使館を反米デモで包囲してアメリカ大使館側から「外交公館保護義務を規定したウイーン協約違反だ」と抗議された国なのだから。

 

 韓国は日本に対して、「世界貿易機関WTO)に提訴する」といきり立った。ところが、なんと、藪(ヤブ)をつついたら蛇がでた。

 世界貿易機関WTO)は、“発展途上国”に対して、「特別かつ異なる待遇」(S&D)を与えている(この「特別かつ異なる待遇」が認定されれば、関税や補助金などで優遇措置を受け、自国産業を保護することができる)。

 「韓国は1996年に経済協力開発機構OECD)に加入した当時、先進国入りを宣言するよう要請されたが、農業分野への打撃を懸念し、農業を除く分野で開発途上国への優遇を主張しないことで合意し、開発途上国にとどまった」(ロイター通信)。

 かねて先進国入りをしたと鼻高々だった韓国だが、実は、いまだに“発展途上国”として、この「特別かつ異なる待遇」(S&D)を受けていることが明らかになったのである。ズルをして“自由貿易”(?)の利益を満喫していたのである。

 

【参考】

 「世界貿易機関WTO)ルールがもはや時代錯誤なのは、中国のような自由貿易を阻害している国を加盟させてしまったこと。また、今回の問題を招いた発展途上国の優遇措置、いわゆる『S&D』(特別のかつ異なる待遇)があることだ。これは、世界貿易の発展のためには必要な措置だが、発展途上国か先進国かを決めるのが“自己申告”という点がトンデモナイのである。

 そのため、中国や韓国のように、いつまでも自国を発展途上国と言い張る国が出てくる。とくに、中国は、加盟時に約束した市場の自由化や透明性を高める努力を明らかに怠ってきた。

 韓国は、昨年、台湾がもはやこれ以上発展途上国と言い続けるのは恥ずかしいと自ら優遇措置を放棄したのにもかかわらず、知らん顔を通した。

 すでに、トランプが言うようにWTOは壊れている。アメリカは何度もWTO改革を訴えたのに聞き入れられなかったため、2016年から、WTOの紛争処理機関で最高裁の判事に当たる上級委員会の委員の任命(任期は4年、再選は1回限り)を拒否してきている。

 WTOの上級委員会は、7人の定員から3人が選ばれて審理を行うことになっている。ところが、現在、アメリカの拒否が続いているため、上級委員が3人しかいない。このうち2人の任期は、今年の12月に切れる。

 となると、上級委員会は実質的に機能停止に陥る。つまり、WTOは紛争裁定ができなくなる。トランプが発展途上国優遇への不満をぶちまけなくとも、壊れるのは必至である。

 韓国はWTO加盟国だから、このような状況をわかっているはずだ。それなのに、7月24日にジュネーブで開かれたWTO一般理事会で、日本の輸出管理強化を不当だと訴えた。もはや、審理さえされないはずなのに、時間の無駄である。

 しかも、日本の措置は“徴用工問題”に対する報復だとしたのだから、その外交センス、時代錯誤ぶり、いや国家そのもののあり方を疑うしかない。

 いまや世界は、ファーウェイに象徴されるように、中国排除に向かっている。とくに、世界貿易からは、今後、中国は排除されていくだろう。脱中国のサイプライチェーンが形成されようとしている。

 そんななか、韓国は、どうしようというのだろうか?

 “ホワイト国”外しでは、反日を旗幟鮮明にしたが、今回の“発展途上国”外しでは、相手がアメリカだけに沈黙している。本来なら、台湾同様、自主返上だろう」(山田 順)。

 

【参考】

  韓国銀行は2018年1人当たりの国民総所得(GNI)が3万1349ドルで前年(2万9745ドル)より5.4%増えたと2019年3月5日、発表した。ドル基準で2006年2万ドルを突破してから12年ぶりに3万ドルの高地に上がった。これで韓国は1人当たりGNIが3万ドル以上であり人口は5000万人以上の「30-50クラブ」に世界で7番目に名乗りを上げることになった。

 

【参考】

 韓国・国民が大気汚染問題を憂慮し、深刻に受け止めている状況で、大企業が大気汚染物質の排出を隠蔽していた事実が発覚した。化学大手のLG化学とハンファケミカルが微粒子物質の生成物質の排出量を捏造し、虚偽で報告した。サムスン電子を含めてGSカルテックス、錦湖(クムホ)石油化学、ロッテケミカルなど大手企業6社も大気汚染物質の排出量を捏造した疑いを受けている。これらの中には特定の大気有害物質排出基準値を173倍も超過したにもかかわらず、「異常なし」と捏造した事例もあった。

 

【参考】

 ブルームバーグ・インテリジェンスによれば、世界造船市場における中国のシェアは2021年までに52%に達する。08年は24%だった。一方、08年に38%のシェアを誇った韓国は21年までに22%に低下する見通し。中国はまた中国船舶重工集団と中国船舶工業集団の合併を計画しており、現代重工をはるかにしのぐ巨大造船会社を誕生させようとしている。

 多くの業界で成長が鈍化している韓国では、財閥(チェボル)による産業モデルの有効性に疑問を抱く国民が増えている。

 

【参考】

 「日本経済新聞社がまとめた2018年の『主要商品・サービスシェア調査』では、薄型テレビのシェアで中国勢の躍進が続いている。3位のTCL集団、4位の海信集団(ハイセンス)がシェアを1ポイント前後伸ばした。世界2強であるサムスン電子LG電子の韓国勢はいずれもシェアを低下。シェアを3ポイント伸ばした6位の中国・小米(シャオミ)も含めた中国勢の追い上げが鮮明だ」(2019/7/30 日本経済新聞)。

 

【補】

 「韓国の潜在成長率は2%台と、約20年で半分になった。出生率は1を下回り、労働人口の減少が見込まれる。生産性まで落ちると潜在成長率が徐々にゼロに向かうという懸念がくすぶっている」(2019/9/19 日本経済新聞)。

 

【補】

 「韓国のホン・ナムギ経済副首相兼企画財政部長官は9月20日、対外経済閣僚会議の冒頭で、世界貿易機関WTO)で韓国が発展途上国として優遇措置を受けていることについて、『WTOでほかの途上国が韓国の優遇を問題視するケースが増えて』いると発言した」(2019/9/20 韓国・聯合ニュース)。

 

【補】

 「7月26日にトランプ米大統領は韓国・中国・メキシコなどに対し『世界貿易機関WTO)で発展途上国の地位を放棄すべきだ』と圧力を加えた。韓国などが決定する期間を90日と定めた。その期限が10月23日だ。

 期限前日の22日に韓国のユ・ミョンヒ通商交渉本部長は米ワシントンでロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表、ラリー・クドロー国家経済会議(NEC)委員長に会い、この問題を議論した。(中略)

 韓国は農業と水産業の分野で途上国の地位を主張しながら、低い関税と補助金許容などの特恵を受けている。途上国の地位の放棄はこの分野に打撃を与えると予想される。(中略)

 米国はトランプ政権に入ってWTO改革問題を重要課題に設定した。加盟国のうち経済発展段階がかなり高い国が途上国の恩恵を受けるのは正当でなく、これを管理できないWTOを改革すべきだという問題を提起してきた。ユ本部長は途上国地位放棄に対する政府の立場は決まっていないと明らかにした。(中略)

 トランプ大統領は7月26日、ツイッターを通じて『裕福な国が途上国だと主張して特恵を受ける現在のWTO体制は故障している。これ以上は許されない』とし『米国の犠牲の上で不正行為をする国が特恵を受けないようにすべきだという指示をUSTRに出した』と明らかにした。(中略)

 (その後)シンガポールとブラジルは途上国地位の放棄を宣言した。中国は途上国地位を放棄できないという立場を明らかにした」(2019/10/23 中央日報)。