断章302

 「住宅ローンの返済に窮する人が増えている。金融機関から返済猶予などの救済を受けた人は5万人を超え、東日本大震災の際の5倍に達した。新型コロナウイルスの影響で収入減が広がっているためだ。一方、新規ローンの融資額は伸び続け、一部の住宅価格はバブル期以来の水準に。返済困窮者の増加と新規ローンの膨張が同時に進む構図に陥っている」(2021/04/08 日本経済新聞)。

 

 日本の自称「知識人」リベラルが、ほめたたえ盛り立てた民主党政権時に実施されたのが「事業仕分け」である。それは、仙谷 由人行政刷新担当相によって、毎日新聞のシンポジウム「政治は変わったか~民主政権の課題と自民再生への展望」において、「予算編成プロセスのかなりの部分が見えることで、政治の文化大革命(引用者注:文化大革命をプラスイメージで語る愚か者)が始まった」と自画自賛された。そして、この「事業仕分け」が、日本の“感染症研究潰し”に一役買い、コロナ禍対策に立ち遅れた原因のひとつなのである。これらの自称「知識人」リベラルは、この民主党政権時における自らの所業に口をつぐんでいる厚顔無恥な連中である。

 

 そして、自民党政権も褒められたものではない。というのは、その後の経過に明らかである。

新型コロナウイルス対策で、政府が初めて緊急事態宣言を出してから1年が過ぎた。収束のめどが立たないばかりか、大阪で感染者が急増するなど、『第4波』への懸念が高まっている。

 対策の切り札とされるワクチンは、来週から高齢者への接種が始まるが、国民全体へ行き渡る見通しは示されていない。供給を輸入に頼っているためだ。

 世界では、ワクチン製造企業を擁する国で接種率が高い傾向がみられる。日本の接種率は1%に満たない。国内企業も開発に取り組んでいるが周回遅れだ。

 ワクチンは、パンデミック(世界的大流行)対策に欠かせない。だが、各国による争奪戦が激しさを増す中、海外頼みではおぼつかない。

 政府は、国内でのワクチンの開発を支えるために中長期的な戦略を立てる必要がある。

 2009年に流行した新型インフルエンザの際も、国産ワクチンの開発や供給が遅れた。政府の有識者会議は翌年、『可及的速やかに国民全員分を確保するため、製造業者を支援し、生産体制を強化すべきだ』と求める報告書をまとめた。しかし、その後もメーカー任せの状況は変わることはなく、具体的な国家戦略が示されることはなかった。

 一方、海外では官民協調の研究開発が進んだ。その蓄積が新型コロナワクチンに生かされ、迅速な実用化につながった」(2021/04/08 毎日新聞)。

 

 なぜ、日本にはプリンシプルがなく戦略がないのか? 

 それは、戦後日本のエスタブリッシュメントが、「政治的イデオロギーに代わるものとして、繁栄の旗のもとに経済的な階層を結集するというマーク・ハナ流の『利害による政治勢力の結集』に基盤を置いて」(P・ドラッカー)、経済的な利益最優先だけだったからである。

 「1950年以降、日本の政治を担ってきた自民党にも、際立って日本的な特徴がいくつかある。しかしそれは、1930年代のルーズヴェルト民主党1920年代のクーリッジの共和党に極似している。同じような派閥を持ち、同じような地方ボスがいる。利害集団間の離合があり、取引があり、腐敗がある」(P・ドラッカー)。

 なので、日本のエスタブリッシュメントには、「誇り」、プリンシプル、戦略が無いのである。

断章301

 「にわかに信じがたいかもしれないが、私たちは人類史上最も平和な時代に生きている。日々世界で起きる紛争・殺戮の報道を尻目に、じつは暴力は日に日に減っているのだ」(スティーブン・ピンカー)。

 また、「停滞している。貧しくなった」と言われつつも、「先進国の住民は、巨視的に見ればかつてないほど豊かな世界に生きている」ので、そういった現実を背景として、「『私は私の人生を自由に選択できるし、そうすべきだ』という価値観。もっとかんたんにいえば、『自分らしく生きることは素晴らしい』という価値観が浸透拡大する。

 『そんなの当たり前だ』と思うかもしれないが、数百万年の人類史には『自由な人生』などという選択肢はそもそもなかった。日本でも江戸時代はもちろん戦前ですら、生まれた家柄によって職業が決まり、親や親族が決めた相手と結婚するのが当たり前だった。一人ひとりがあまりに脆弱なので、共同体に依存して生き延びるしかなかったのだ。

 ところが半世紀ほど前から、テクノロジーがもたらすゆたかさを背景に、『自分らしく生きる』ことが可能になった」(橘 玲)と、多かれ少なかれ、誰もがそう感じていた。生存と将来への安心感が、この価値観の浸透拡大を支えてきたのである。

 「ひとは生存のために死に物狂いになっているときには自己表現のことなど考えられないが、生存について心配しなくてもよくなれば自分を表現したくなる」(ロナルド・イングルハート)。

 

 ところが、「新型コロナの影響ではっきりしたのは、『経済格差がさらに拡大する』ことだ。アメリカの調査では、株式など多額の資産を保有する富裕層や、リモートワークに適した高度専門職はコロナ禍でも収入はほとんど影響を受けず、旅行やパーティーなど不要不急の支出が減って貯蓄が増えている。それに対してエッセンシャルワーカーなどの低所得層では失業者が急増する一方、家賃や食費・教育費などの基礎的な支出は減らすことができないので、わずかな貯蓄を取り崩してしのいでいる。このようにして、『恵まれたひとはますますゆたかになり、恵まれないひとはますます貧しくなる』という“マタイ効果”が加速する」(橘 玲)。

 

 3月4日付けの日本経済新聞によれば、「官庁もDX(デジタルトランスフォーメーション)人材を募集。年収1000万円や週3日勤務の厚遇で。民間では数千万円も。それでも確保楽観できず」というのだ。

 一方、「阪急阪神ホールディングスは31日、グループのホテル6軒の営業を順次終了すると発表した。大阪新阪急ホテルや第一ホテルアネックスなどを2021年度末から25年度末にかけて閉める。新型コロナウイルス禍で利用が減少し、ホテル事業の赤字が拡大。ホテル子会社の従業員も3割以上減らす」という。

 

 この流れは、社会全般に生存と将来への不安感を増大させるだろう。ところが、日本のエスタブリッシュメント(注:国や市民社会や組織の中で、意思決定や方針樹立に影響力が強い、既成の権威的勢力)には、プリンシプルも戦略も不在のように見受けられるのである。

 

【補】

 「菅義偉首相肝煎り、『デジタル庁』の発足が間近だ。関連法案は4月6日に衆院を通過し月内にも成立する見通し。デジタルガバメント成否のカギを握るのはいわずと知れた個人番号、通称・マイナンバー。日本に住む1億2000万人超の全員に割り振られている12ケタの数字だ。1960年代まで遡る国民的な侃々諤々(かんかんがくがく)を経て制度そのものは5年以上も前に発足したにもかかわらず、いざ使いこなそうとすると必要になるプラスチック製のICチップ付きカード(マイナンバーカード)の普及率は1割前後の低空飛行を続けてきた。皮肉にも新型コロナウイルス禍での10万円給付金の配布を巡るドタバタで必要性が認識され、税金によるキャッシュバック、マイナポイント事業も相まってようやく3割弱まで普及が進んだ。

 だが、問題は依然山積み。最近ではマイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにする『マイナ健康保険証』の稼働が予定の3月下旬から半年程度の延期を余儀なくされた。"好例"という言葉は適切ではないが『なんでそんな問題が起きるの?』と素朴に疑問を持つと、マイナンバーを取り巻く課題が浮かび上がってくる。

 本来であれば3月下旬には準備ができた病院・薬局の受付に顔認証用のカードリーダーが設置され、マイナンバーカードを読み取らせれば瞬時に本人確認ができるシステムの本格導入が始まるはずだった。だが昨年10月以降、健康保険組合など公的医療保険の保険者が持つデータとマイナンバーを突き合わせる作業を進める中で、氏名・年齢など本人の基本情報とマイナンバーとが合致しないケースが多数発見されたのだ。その数は2月には最大3万件に達した。マイナ保険証は受付だけでなく医療データの収集・閲覧も可能な機能を持つため、このまま本番に突入すれば最悪の場合、自分の特定健診データや薬剤情報などが他人の目に触れる恐れさえあった。

 一体、なぜ? 原因は保険者が持つデータにマイナンバーを加える際の誤りとみられる。国民皆保険の日本では全員が何らかの公的医療保険に加入している。自治体が運営する市町村国保や公務員が入る共済組合の他に民間企業が母体の組合健保や協会けんぽなど計3000以上が存在する。ザックリ割ると1保険者平均10の誤入力があった計算だ。多いか少ないかは微妙だが、保険者によるマイナンバー収集過程を考えると確かに随所に誤りが起きる可能性を内包している。

 マイナンバーは『番号法』という法律にガチガチに縛られ運用される。企業や団体はむやみに個人に対して番号の提供を求めてはならず、その取得や保管・管理にも罰則規定のある厳しいルールが課されている。健保は個人から直接マイナンバーの提供を受けられる主体でないため、通常企業を経由して番号を入手する。そして企業の場合の入手方法は会社員個人からの自己申告だ。

 12ケタもある個人番号を手書きで提出すれば誤記の可能性は常にある。しかも家族で1番号の健康保険証に対し、マイナンバーは個人ごとの番号だから5人家族なら誤記の可能性も5倍に。原本(マイナンバーカード、もしくは通知書のコピー)との突き合わせ確認をしているはずだが、現場でどこまで徹底できているかは疑問も残る。さらに大企業では外部のデータ入力会社に作業を委託するケースも多い。会社→委託会社→健保と関係者が増えれば、誤入力や情報漏洩の危険性は増大する。

 問題のあった3万件については厚生労働省がそれぞれの保険者に伝え、担当者が人海戦術で潰していった結果、現時点では問題はほぼ解消しているという。今後は『ヒューマンエラーが起こりうることを前提にシステム対応を強化する』(厚労省)。この手のことに百%ミスなしがあり得ないのは当然だが、効率化のための仕組みづくりなのに逆説的に膨大な作業量が生じているのは皮肉な現状だ。

 それも『なぜ?』と考えるに、行政と国民の間で土台となる共通認識が欠如している現実に行き着く。マイナンバーとはどういう数字で、どう生かし、どう規制するか ――。議論の整理を避けたまま運用の拡大は続く。マイナンバー自体は日本に住む全員に好むと好まざるとにかかわらず、いわば強制的に付番されている。にもかかわらず『自己情報コントロール権の侵害』という批判を恐れてか、運用プロセスにおいては随所で『任意』を組み込むことで不要なヒューマンエラーを呼び込んでいるようにもみえる。任意でつくるマイナンバーカードの低普及率しかり、健保の情報収集の誤りしかりだ。問題の在りかについて同志社大学の北寿郎教授は『政府側にマイナンバーを使う覚悟ができていないという根本的な問題があり、利用者側にも誤解を含めてそんな政府を信用していないという事情がある』と指摘する」(2021/04/06 日本経済新聞・山本 由里)。

断章300

 視界は、まるで黄砂におおわれているように、コロナで不良である。

 「新型コロナウイルス禍で中小の飲食・宿泊業の資金繰りが悪化している。銀行の口座情報から資金の流れを調べたところ、収入が不動産賃料などの支出より少ない支出超過の飲食・宿泊業は1月時点で6割と1年前に比べて倍増した。運転資金を賄えず、銀行借り入れなどに頼っている」(2021/03/29 日本経済新聞)。

 インフレの気配すらある。「日清オイリオグループは、3月9日、原料価格の高騰が続いていることを受け、6月1日納入分から家庭用食用油などの価格を引き上げると発表した。すでに発表している4月1日納入分からの価格改定に続き、今年に入り2度目の値上げとなる。家庭用食用油の価格を1キログラムあたり30円以上引き上げ、2度の価格改定で計50円以上の値上げとなる」(2021/03/09 日本経済新聞)。

 

 すでに、コロナ禍の前から、「資本主義は、大きな富の格差を生み出し、それが機会の格差を生み出し、今私たちが見ているような方法でシステムを脅かしている。富の格差は、富裕層の子供たちがより良い教育を受けられるという理由で不公平な優位性を与え、機会均等という概念を根底から覆している。機会均等という概念が損なわれる。公平ではなくなり、機会均等を得る人の数が減ると、その社会成員の中から優秀な人材を見つける可能性が減り、生産性が損なわれる。そうなると、『持っていない人』は、経済状況が悪い時に資本主義システムを破壊したいと考えるようになる。このダイナミズムは歴史の中で常に存在してきたし、今も起こっている」(レイ・ダリオ)と言われていた。

 

 そして、「調査会社リサーチ・アンド・マーケッツの予測では、産業用ロボットの市場は27年に1017億ドル(約11兆円)と20年の2.3倍に膨らむ。人工知能(AI)の進化もめざましい。

 価値の源泉がモノからデータやソフトウエアに移り、『GAFA』に代表されるIT(情報技術)企業が力を握る時代。労働者は勤勉さでは評価されず、優れた頭脳とスキルをもつ一握りの人材が『高評価』を得る。

 生み出す付加価値の差は賃金に反映される。米労働省の2019年の統計によるとコンピューター・情報関連の職種の年収(中央値)が8万8千ドルにのぼるのに対し、製造部門の職種は半分以下の3万6千ドルと大差がついた。激動期、労働者の痛みがいつ収束するかは見えない。だが技術の進歩を拒んだ国家や社会は衰退の道をたどる」(2021/03/31 日本経済新聞)のである。

 

 なので、「自動車産業の黎明期を引っ張った欧州。業界団体や独フォルクスワーゲンVW)などの企業、有力大学は産業競争力に加え、『経済的・社会的責任を果たすため、労働力の再教育に多大な投資が必要』との考えで一致した。毎年労働者の5%にデジタル関連などのスキルを習得してもらう投資を始める。数年で対象は70万人、総額70億ユーロ(約9100億円)との試算もある」。ヨーロッパだけではない。アメリカの富豪たちは、ICT教育のために巨額の寄付をしている。

 

 日本は、やはり立ち遅れている。

 「菅義偉首相は、31日の衆院内閣委員会で、マイナンバー制度に関する国費支出の累計が関係法成立後の過去9年で約8,800億円に上ると明らかにした。立憲民主党後藤祐一氏が『コストパフォーマンスが悪過ぎるのではないか』と指摘したのに対し、『確かに悪過ぎる』と認め、マイナンバーカード普及や利便性向上などの改善に全力を挙げる考えを示した」(2021/03/31 時事通信)。

 国費支出の累計が約8,800億円というにとどまらず、“制度設計の失敗”による日本の機会損失は、さらに尾を引きそうである。

断章299

 亡母の実家のとっくに80歳を過ぎた叔父が、今もなお、米を送ってくれる。ありがたいことである。なので、米はある。だから、タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、そしてキャベツがあればよい。一日目は安い牛切り落とし肉を加えてカレーにし、二日目は余ったウインナーを入れてポトフにし、三日目は残りものの豚コマ肉を入れて肉じゃがにし、四日目は味噌を入れて具沢山の味噌汁にする。倹約する。そしてチャリンと500円玉貯金をする。それが、「はてなブログPRO」を維持する原資になる。それが、ネットの「日本の古本屋」で本を買う元手になる(図書館に行きたいがコロナが怖い)。

 

 橘 玲は言う。「私はこれまで、『人生100年』の時代には、生涯現役(生涯共働き)以外に人生設計の最適戦略はないと繰り返し述べてきた。日本の経済格差は今後、この大きな変化に適応できるかどうかで、『老老格差』として顕在化してくるだろう。ほとんどの予測は『当たるも八卦、当たらぬも八卦』だが、これはそのなかでは数少ない『確実にやってくる未来』になるはずだ」(2021/01/08)。

 下級国民のわたしの暮らしは、楽ではない。しかし、「マネープランクリニック」を見れば、相変わらず、「50代、母子家庭で頑張って働き、もう心身ともに疲れました」といった相談が多いことに気づくのである。且つ、もし彼女の職場が外食産業だとすれば・・・。

 

 しかもそれだけではない。

 「NY大学のヌリエル・ルービニ教授は『2020年代に訪れる大不況』というレポートで、『経済のより広範なレベルがデジタルの影響を受ける。何百万人もの人々が職を失ったり、収入を減らしたりするなか、貧富の格差はさらに拡大するだろう。将来のサプライチェーンショックを防ぐために、先進国の企業は低コスト地域から高コストの国内市場に生産を戻す。しかし、この傾向は、国内の労働者を助けるのではなく、自動化・AI化をさらに加速させ、賃金に下押し圧力をかけ、ポピュリズムナショナリズム、排外主義の炎をさらにあおるだろう』と述べている」(石原 順)。

断章298

 「インテル。入ってる?」。パソコンの普及期には、このCMをよく見たものだ。

 インテルの伝説的な経営者アンドリュー・グローブは、こう言った。

 「パラノイア(病的なまでの心配症)だけが生き残る。これは、私のモットーである。

 事業の成功の陰には、必ず“崩壊の種”が潜んでいる。成功すればするほど、その事業のうま味を味わおうとする人々が群がり、食い荒らす。だからこそ経営者は、常に外部からの攻撃に備える必要がある。それが、最も重要な責務だ。

 パラノイアのように神経質になってしまうことは色々ある。例えば、製品に問題がないか、士気が落ちていないか、競合企業の動きはどうか……。

 しかし、こうした懸念も、『戦略転換点』に比べれば大したことはない ―― 。

 戦略転換点とは、『企業の生涯において根本的な変化が起こるタイミング』のことだ。その変化は、企業にとって新たな成長へのチャンスであるかもしれないし、命取りになるかもしれない」。

 

 1985年のプラザ合意が、日本の「戦略転換点」だったのだろうか?

 戦後日本の高度経済成長は、エズラ・ヴォーゲルによって『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と呼ばれるほど、目覚ましいものだった。

 「日本車の輸入増加でアメリカの自動車産業は大きな打撃を受け、アメリカの対日貿易不均衡についての反発が強まり、市民からメディア、政治家まで、アメリカ中で日本に対する抗議や日本を非難する言動が広がった」(WIKI)。

 「1985年、プラザ合意の中心は、アメリカの対日貿易赤字が顕著だったため、実質的に円高ドル安に誘導する内容だった。

 発表翌日の9月23日の1日24時間だけで、ドル円レートは1ドル235円から約20円下落した。1年後にはドルの価値はほぼ半減し、150円台で取引されるようになった。

 急激な円高により、『半額セール』とまでいわれた米国資産の買い漁りや海外旅行のブームが起き、賃金の安い国に工場を移転する企業が増えた。とりわけ東南アジアに直接投資する日本企業が急増したため、『奇跡』ともいわれる東南アジアの経済発展をうながすことになった」(WIKI)。一方、それはその後の日本国内の空洞化、雇用の非正規化、国内賃金の低落につながった。

 

 そして今回のコロナ禍である。これは、日本の新たな「戦略転換点」なのだろうか?

 コロナ禍は、日本と日本企業にとって新たな成長へのチャンスであるかもしれないし、命取りになるかもしれない。

 不安なことは、今回も又、日本の政治家には、「パラノイア(病的なまでの心配症)」が不在のように見えることである。

断章297

 桐一葉落ちて天下の秋を知る ―― 落葉の早い青桐の葉が一枚落ちるのを見て秋の訪れを察するように、わずかな前兆を見て、その後に起こるであろう大事をいち早く察知することをいう。

 アメリカの巨大企業は、ついに「地政学的」な発想での巨額投資に舵を切った。

 

 「半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が先行して進めている米国アリゾナ州の先端半導体工場計画が早くも難路にかかる。建設費用が当初想定の数倍に膨れ上がりそうなほか、材料などのサプライチェーン(供給網)構築でも課題山積だ。同社と取引のある日系サプライヤーも多いが、高リスクから米国進出に二の足を踏む可能性がある。

 『TSMCアリゾナはえらい苦労しているようだ。業者から見積もりを取っている段階だが、台湾と比べてとてつもない金額らしい。建設費用だけで6倍だとか』(業界関係者)と米国の建設コスト高騰が直撃する。

 TSMCは米アリゾナ州に建設する半導体工場を2021年内に着工し、2024年の稼働を予定。回路線幅が5ナノメートル(ナノは10億分の1)の先端品を製造する。2020年5月に発表した総投資額は120億ドル(約1兆3,000億円)の見込みだった。

 米国の人件費は台湾と比べて3割以上高いものの、労働生産性は逆に低いため、数字以上のレイバーコスト高がすでに悩みの種だ。『トランプ前政権に言われて地政学的リスクも含めて進出を決めたのだろうが、あの国に出るのは簡単ではない』(同)と経済合理性に疑問符が付く」(日刊工業新聞)と報じられたのは、つい先日のことである。

 

 にもかかわらず、「米国が半導体産業の復権に向けて動き出した。バイデン政権が国内生産の回帰策を掲げるなか、大手のインテルは約2兆円を投じて新工場を米国に建設する。あわせて他社開発品を量産する受託生産事業にも乗り出す。半導体はデジタル社会を支える中核製品だが、最先端の開発製造ノウハウは生産シェアで勝る台湾と韓国勢に流れがちだ。国をあげた技術覇権の競争が本格化する。

 インテルは23日、今後数年間で200億㌦(約2兆1700億円)を投じ、米西部のアリゾナ州に新工場を建設すると発表した。2024年の稼働を目指し、パソコン向けCPU(中央演算処理装置)などに使われる回路線幅が7ナノ(ナノは10億分の1)程度の先端の半導体生産を狙う。同社は7ナノ開発で出遅れており今回は巻き返しに向けた巨額投資となる。

 ライバルはその先を行く。今年のトップ3社の設備投資額を比較すると、台湾積体電路製造(TSMC)は280億ドル、韓国サムスン電子もほぼ同額。インテルの投資は約1兆円も少ない。

 現在、半導体の生産量と技術力で業界をリードするのがTSMCサムスン電子だ。受託生産売上高ではTSMCはシェアで5割を超える。微細化でも2社は7ナノより1世代先の5ナノ品を既に量産し、商品投入も昨年から始まっている。TSMCの5ナノ品は昨秋から、米アップルのスマホ『iPhone12』向けに全量供給がスタートした。他社を寄せ付けない大型投資は、技術力を維持して優良顧客をひき付ける最重要の戦略だ」(2021/03/24 日本経済新聞)。

 

 注目すべきは、インテルが決断をした理由のひとつとして、「ゲルシンガーCEOは、『半導体をめぐる環境は大きく変わりつつある。現在ファウンダリーの最先端の製造施設の大部分はアジアにある。このため、業界では地政学的にもっとバランスを取ってほしいという声が増えている』という、今日の世界情勢にあって、非常に印象的な声明を発表した」(笠原 一輝)。

 

 地政学! 危機の時代、「国家の論理」と「資本の論理」は、手を取り合って進むことが明らかである。上記の記事中に日本も日本企業も存在しない。しかし、「桐一葉落ちて天下の秋を知る」。わずかな前兆を見て、その後に起こるであろう大事をいち早く察知することは、日本にとって大切なことである。

断章296

 「政治は結果がすべて」と、日本の保守政治家は言う。この見解は、わからないでもない。というのは、「共産主義者の使命は、民衆に奉仕することである」と宣伝していた毛 沢東やポル・ポトによる政治の結果を見てみれば・・・。

 

 それにしても、「新聞の1面トップ級ニュースだと思うが、これまでのところほとんど報じられていない。税金と社会保険料に関する国民負担の数字である。

 財務省によると、分母に国民所得、分子に税負担と社会保障負担の合計値をおいて算出した国民負担率は、2021年度に44.3%になる見通しだ。国民負担率に将来世代の税負担になる財政赤字の比率を加えた潜在的国民負担率は、56.5%と見通している。けっこう高いと感じるが、この数字だけなら中程度のニュースだ。

 目を注ぐべきは、同時に明らかになった2020年度の実績見込みである。国民負担率は46.1%だが、潜在的負担率は66.5%と、法外に高い値が記されている。高負担国家の代名詞であるスウェーデンでさえ潜在的負担率は58%台止まりだ(2018年実績)。むろんコロナ対策で、今は同国の負担率も上がっているかもしれない。だが18年の財政赤字比率がゼロという巧みな財政運営を考えると、コロナ対策費を借金でまかなったとしても国の財政の余裕は日本よりはるかに大きい。

 ちなみに、日本の財務省が昨年2月に公表した資料をみると、20年度の潜在的負担率の見通しは49.9%だった。この1年間に16.6ポイントも跳ね上がったのは、ひとえにコロナ対策のせいだ。赤字国債の発行という将来世代へのつけ回しで財源を工面した。その事実を物語る数字である。〈中略〉

 根源的な問題は、潜在的負担率が66.5%に膨れあがる過程で、コロナ対策を名目にすれば将来世代につけをどんどん回してもいいんだという空気が醸成されたことではないか。もちろん100年に1度のパンデミックである。蒸発した需要をカバーする責務は、一義的に国・自治体など公的セクターにある。だが『対策費は大きいほど善だ』という意見に疑問を呈する声はかき消され、異論を封じてしまった政策決定プロセスは、改めて検証が必要になるだろう。〈中略〉令和の日本を、江戸期の『五公五民』をしのぐ重税国家に陥らせた経過が軽すぎないだろうか。〈中略〉

 潜在的負担率を1年で66.5%に上昇させた過程の検証が十分でないままに、21年度の政府予算案は、週内にも国会で成立する運びだ。重税国家への足音がひたひたと忍び寄ってくる」(2021/03/24 日本経済新聞・大林 尚)。

 

 日本の高度経済成長は、アメリカを「模倣」したことによる成長であった。やがて、知識や技術、そして消費生活もアメリカに追いついた。すると、慢心・安住して次の「創造」に踏み出すことができないで停滞した。経済のパイが大きくならなければ、当然、今あるパイの取り分の争いになるのは必定である。だから、各種利益集団・圧力団体と政界・官界の癒着も増大するのである。

 

 わたしたち貧乏人には、日本がもっと豊かになること、経済のパイがより大きくなることが必要である。

 主権国家が覇権をめぐり勢力圏を巡って争う時代の国政の「基本」は、「富国強兵」「殖産興業」でなければならない。すでに十分満ち足りた「インテリ」たち(例えば、白井 聡の暮らしぶりを見よ!)による、「資本主義は悪。経済成長は環境破壊」という“プロパガンダ”にだまされてはならない。

 資本主義の“妙”は、インセンティブイノベーションの両輪をフルに駆動できれば、物の大量破棄や資源の無駄使いといった問題を解決できる「省エネ」「省資源」「合理化」をも実現していくことにある。